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キッカーの不定期更新日記 (四季来々トップへはカレンダー下のリンクから戻れます)
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日が昇った。
ルナは目を覚ました。
目の下に残った涙の跡をこすりながら、ルナは体を起こした。

部屋はいつもと、まったく変わりなかった。
板張りの床は古くて、天井は窓に向かってななめに下っていた。
木箱は今日も、夜のうちに動かされた形跡があった。
ただルナの腕の中で、シュガーは確かに動いていた。

ルナは水道で顔を洗って、木箱のリンゴを朝食にした。
シュガーはそれを、静かに見ていた。

太陽は、高く高く上がった。
暑い日だった。
気温はじりじりと上がって、ルナは水で暑さをしのいだ。
水道の水はぬるかった。
ぬぐってもぬぐっても、ルナのひたいには汗がにじんだ。
シュガーはそれを、ずっと見ていた。
それから不意にすっくと立ち上がると、蛇口のもとへと歩み寄った。

シュガーは、蛇口の前でじっとそれを見つめた。
ルナはシュガーが何をするのか分からずに、ただ様子をうかがった。
シュガーには決意があった。
流れる水を目で追いながら、シュガーは口を動かせないまま思った。

(動けないはずのボクが動いている。
それはきっと、意味のあることなんだ。
今のボクなら、きっと何か奇跡が起こせるんだ)

シュガーは蛇口に手をかざした。
水はしばらく、そのまま流れていった。
それから突然、透明な砂のようなものが混じった。
それは氷の粒だった。
シュガーは手をかざし続けた。
水はみるみるうちに固まっていった。

水は、氷の塊になった。

ルナは目を丸くして、氷をまじまじと見つめた。
シュガーはルナを振り返った。
ルナが顔をシュガーに向けると、シュガーは手まねきして氷を指し示した。
ルナは恐る恐る手を伸ばした。
そしてその手が氷に触れると、冷たさに驚いて手を引っ込めた。
ルナはこのとき、氷を見るのも触るのも初めてだった。

ルナはシュガーの顔をうかがった。
シュガーはルナの様子を見守っていた。
ルナはもう一度氷に触れた。
ぺたぺたと手のひらを当てると、氷の冷たさが染み込んでいった。
ルナはシュガーに顔を向けた。
それからシュガーに、にっこりと笑顔を見せた。

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二人はそれから、いつものようにままごとをした。
普段は動かないシュガーが、今日は自発的に動いた。
シュガーと遊びながら、ルナはときどき笑顔を見せた。

ルナは歌を歌った。
声のない無音の歌に合わせて、シュガーはくるくると踊った。
歌いながら、ルナはぽろぽろと涙を流した。
そうしてから、シュガーににっこりと笑いかけた。

日は沈んで、眠る時間になった。
ルナはシュガーを抱いて、板張りの床の上に寝転んだ。
規則的な寝息は、すぐに聞こえ始めた。
シュガーはルナの胸の中で、乾いた瞳に手を当ててさめざめと震えた。

窓からのぞく十六日目の月は、やわらかに二人を照らしていた。

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ルナは声を発することができなかった。
また文字を読み書きすることもできなかった。
結果として、二人は言葉によって意思を伝え合うことが不可能だった。

シュガーは肩を落とした。
ルナはしばらくシュガーを見つめて、それから木箱の方へ向かった。
ルナは木箱のひとつを開けて、そこからリンゴを取り出した。
そのリンゴを、シュガーのもとへ持っていって差し出した。
シュガーはリンゴを受け取った。
そうしてから、力なく首を振った。
シュガーの口は、物を食べることもできなかった。

ルナは首をかしげると、シュガーの手からリンゴを取り上げた。
それをひと口かじってよくかむと、ルナはくちびるをシュガーの口に押し当てた。
かみ砕かれたリンゴは、シュガーの口を汚しただけだった。

ルナはシュガーの口を指でなぞった。
それから一度シュガーから離れて、窓の右下から突き出た蛇口に手を置いた。
蛇口をひねると、ぬるい水が流れ出た。
ルナはそれを手にくんで、シュガーの口をすすいだ。
シュガーの目は、黒い石がはまっているにすぎなかった。
それでもルナは、震えるシュガーの目の下を何度もぬぐった。
蛇口から流れた水は、板目にそって木箱のすき間をぬっていった。

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