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キッカーの不定期更新日記 (四季来々トップへはカレンダー下のリンクから戻れます)
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シュガーは宙に浮いた。
ルナを背中に乗せて、広大な海の上を浮きもせず沈みもせず滑空した。
シュガーの眼下には青い海がきらめいて、眼前には青い空が輝いた。
シュガーは両手を広げて風を受けた。
カモメが滑るように寄り添って、シュガーの横を並走した。
こうこうという声が、シュガーの身を取り囲んだ。
シュガーは、完全に飛んでいた。
ただひとつ、シュガーからはルナの顔が見えなかった。
シュガーはルナの顔が見たかった。
だからシュガーは、体を少しねじった。
バランスが崩れた。
シュガーの浴びる風が変わった。
カモメは一斉に離れていった。
二人の体はきりもみ打った。
ぽっかりと口を開けた青い青い海へ、二人はくるくると回りながら吸い込まれていった。

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朝はやって来た。
ルナは目を覚ました。
シュガーはそのとき、窓辺にいて外をながめていた。
ルナは水道で顔を洗って、木箱のリンゴを朝食にした。
木箱はやはり、夜のうちに動かされた形跡があった。

ルナはシュガーに顔を向けた。
シュガーはずっと、窓の外を見ていた。
ルナはシュガーのそばに寄りそった。
シュガーには、新たな決意があった。
シュガーはルナを振り返ると、心の中で決意を言葉にした。

(今のボクは奇跡を起こせる。
ルナのために奇跡を起こせる。
ボクがルナに一番してあげたいことは、ルナを外の世界に連れていくことなんだ)

シュガーは窓枠に飛び乗った。
ルナはずっとシュガーを見ていた。
シュガーは窓に手をかけた。
しばらく、シュガーは何も動かなかった。
それからついに覚悟を決めると、シュガーは一気に窓を押し開けた。

外には、海が広がっていた。

窓が開いた瞬間、強い風が吹き込んできた。
潮風の香りが、ルナの嗅覚をなでた。
シュガーは眼下をのぞき込んだ。
吸い込まれそうなほど真っ青な海が、はるか下にひろびろと横たわっていた。
シュガーは足がすくんだ。
カモメがこうこうと、あっちからこっちから飛びかっていた。
そこは海の真上だった。
広い海のど真ん中に、窓だけがぽっかりと浮かんでいた。

シュガーは振り返った。
ルナの金色の瞳が、シュガーをまっすぐに見つめていた。
その瞳からは、恐れや期待などのさまざまな感情が読み取れた。
シュガーはこぶしをにぎりしめた。
沸き上がる恐怖を押さえつけながら、シュガーは自分に言い聞かせた。

(動けないはずのボクが動ける。
水を氷に変えることもできた。
それならば、ぬいぐるみが空を飛べたって、何もおかしくはないんだ)

シュガーは手を差し出した。
ルナはとまどいながら、その手を取った。
シュガーはルナの手を、自身の肩に回した。
そうしてルナを背負う形になると、シュガーは窓の外へと向き直った。
海と空は青くて、そして途方もなく広かった。
カモメはこうこうと、せかすように止めるように鳴き続けた。
シュガーは震える自身の足をしかりつけた。
それからしばらく直立した。
そうして一発、気合いを込めた。

(飛ぶんだっ)

シュガーの足が、窓枠を蹴り出した。

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それからルナは、氷を抱いて歌を歌った。
無音の歌に合わせて、シュガーは軽快な踊りを踊ってみせた。
ルナは氷を抱きながら笑った。
それからシュガーを抱いて、また笑った。

あっという間に夜になって、窓からは立ち待ちの月が見えた。
ルナはシュガーを抱いて横になった。
月明かりは二人を、ひかえめに照らした。
ルナは一度シュガーを強く抱きしめると、その頭にほおをすり寄せた。
それからほどなくして、ルナからすうすうと寝息が聞こえた。
シュガーはルナの腕の中で、ルナの手と自分自身をきつく抱きしめた。
溶けた氷が、木箱の間に染み込んでいった。

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